脱炭素を「まちのブランド」へ。
東京臨海副都心が描く、にぎわいと環境が両立するまち

左から、佐藤様、中林様、鈴木様

左から、佐藤様、中林様、鈴木様

一般社団法人東京臨海副都心まちづくり協議会

統括事務局長 中林 久則 様
事務局長 佐藤 淳也 様
環境PT リーダー 鈴木 和博 様


東京を代表する観光・ビジネスの拠点、東京臨海副都心。
お台場や有明を擁し、海辺の開放感と都市機能が融合した東京のベイエリアです。

このまちで「にぎわい・集客」「環境」「防災・防犯」の3つのプロジェクトチーム(PT)を軸に、エリアマネジメントを推進するのが、一般社団法人東京臨海副都心まちづくり協議会(以下、まち協)です。まち協は、企業、行政機関、学校、文化・防災施設など約50の事業者等で構成されています。

2024年9月には、東京都港湾局とともに「臨海副都心カーボンニュートラル戦略」を策定。2030年のカーボンハーフ、2050年のカーボンニュートラルという高い目標に向け、エリア一体となった脱炭素の取り組みを開始しました。

多様なステークホルダーが「同じ船」に乗るこのまちで、いかにして脱炭素を「まちのブランド」へと昇華させていくのか。
活動の中核となっているまち協の中心メンバーにお話を伺いました。

行政と民間が「同じ船」に乗る、独自のプロセス

インタビューに答える中林様(左)、鈴木様(右)

インタビューに答える中林様(左)、鈴木様(右)

2024年9月に策定された「臨海副都心カーボンニュートラル戦略」。
まずはその策定の背景からお聞かせください。

統括事務局長 中林様(以下、中林):
臨海副都心は、1997年の東京都「臨海副都心まちづくり推進計画」に基づき、開発当初から豊かな水辺環境を活かした都市開発や地域熱供給の導入など、環境に配慮したまちづくりを続けてきました。その実績もあり、2022年、東京都の戦略において「2030年カーボンハーフ」に向けたモデル先行地区に指定されたんです。

行政主導の施策だけでなく、実際にこのまちで活動する事業者の方々と足並みを揃えて進めていくことが重要だと考え、「まち協」の事務局と事業者で構成する環境PTなどが連携して「脱炭素化検討委員会」を立ち上げたのが、本戦略策定の始まりです。

環境PT 鈴木様(以下、鈴木):
この臨海副都心は、多種多様な事業者が、いわば「同じ船」に乗っています。行政が一方的にルールを決めるのではなく、現場が対話を重ね、一つひとつ納得しながら積み上げていく。このプロセスこそが、個性が集まるこのまちらしい脱炭素のあり方なんです。

戦略の中では、数値目標だけでなく「まちのブランド・魅力向上」が
大きなテーマとなっていますね。

中林:
策定にあたって実施したアンケートが、一つのきっかけになりました。多くの事業者から「脱炭素はやらなきゃいけないと分かっているが、具体的にどうすればいいか分からない」という切実な声が寄せられたんです。戦略を単なる「数字を追うだけのノルマ」にしてしまうと、プレッシャーを感じたり、先行している事業者と比較して引け目を感じたりと、どうしても取り組みが後ろ向きになってしまう。脱炭素という価値を「にぎわい・集客」といった既存のテーマに付加し、ポジティブに参画できるようなコンセプトが必要だと考えました。

鈴木:
中林さんがおっしゃる通り、数値目標の達成だけに主眼を置くと、極論「まちの明かりを消して、人間活動を抑えればいい」という話になりかねません。しかし、ここはにぎわいを生み出すまちです。活動を制限するのではなく、脱炭素という価値を付加することで、まち全体のブランドを高めていく。そうやってポジティブに魅力を積み上げていくことが、私たちがこの戦略に込めた「攻め」の意志です。

数字を出すのがゴールではない。信頼関係と「まちへの愛着」を、土台にする

インタビューに答える佐藤様

インタビューに答える佐藤様

脱炭素化への取り組みとして、今年度(2025年度)は、2023年度の排出量算定を実施されました。e-dashではその算定の支援や、一部の事業者に対しては削減の助言をさせていただきましたが、結果をどのように見ていますか。

中林:
事務局としては、今回の算定を「今後に向けた取り組みの第一歩」と捉えています。2019年度からの経過を分析した結果、まち全体の排出量は減少傾向にあることが分かりました。一部の事業者が非化石証書を調達したり、再エネ電力プランへの切り替えに取り組んだりしてこられた成果だと思っています。一方で2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、まだ道半ば。全事業者の協力が欠かせません。

事務局長 佐藤様(以下、佐藤):
事業者の皆様が高い意識を持って取り組んでくださっているのは感じますが、これまでは算定手法がバラバラだったり、手作業の負担が大きかったりと、現場の苦労も見てきました。今後はe-dashさんのシステムなどを活用して算定の精度を高めるとともに、どうすれば事業者の皆様に前向きに取り組んでいただけるかという働きかけの工夫についても、e-dashさんと相談しながら進めていきたいと考えています。

鈴木:
業種も業態もさまざまですから、「これをやりなさい」と一律に押し付けるのではなく、事業者が自ら選べる「削減のためのカード(選択肢)」を提示できる状態を、e-dashさんと一緒に作っていきたいですね。数字を出すのがゴールではなく、まちの愛着の中に数値が紐付いていくような形が理想です。

佐藤:
また、積極的に取り組んでいる方々との信頼をさらに深めるのはもちろん、これからともに歩み出していく方々に対しても、事務局が自ら歩み寄り、新しい一歩を後押しできるような繋がりを作っていきたいと思っています「あの事務局が言うなら」と信頼してもらえるような、一人ひとりの顔が見える繋がりを大切にしていきたいです。

「実験都市」としてのスピード感と、再発見される自然

「実験都市」としてのスピード感と、再発見される自然
脱炭素へ向けて、すでに進んでいる取り組みや、今後の施策について教えてください。

中林:
エリア内の事業者でまとまって「非化石証書の共同調達」を開始しました。単独では難しくても、エリアとして協定を結ぶことで「0を1にする」大きな一歩を踏み出せたと感じています。

鈴木:
直近では、東京都の事業として「Airソーラー(ペロブスカイト太陽電池)搭載庭園灯」がお台場海浜公園内に導入されました。事業の採択から設置までわずか1ヶ月という驚異的なスピードでしたが、こうした行政の先進的な試みにまち全体でスピーディーに呼応できるのも、歴史が浅いまちだからこそ。既成概念にとらわれず新しいことに挑戦できる「実験都市」的な側面があるから実現したのだと思います。

また、都心と違って空が広く、物理的な「余白」があるんですよね。レインボーブリッジ越しに対岸の都心のビル群を眺めると、あちら側が「完成されたまち」であるのに対して、この臨海エリアは「常にアップデートし続ける未完のまち」なのだと実感します。この圧倒的なスケール感があるからこそ、新しい技術を日常の風景の中にスムーズに受け入れられるのだと思います。

「実験都市」としてのスピード感と、再発見される自然

レインボーブリッジから眺める臨海副都心(2022年)

佐藤:
今後の挑戦としては、まちで開催されるイベントの排出量算定、カーボンニュートラル化にも取り組んでいきたいと考えています。まちを訪れる皆様が体験する「にぎわい」そのものを脱炭素化していく。そんな、エリア全体での新しい取り組みを加速させていきたいです。

中長期的には、水素エネルギーの導入・活用事例の共有や、臨海副都心の「生態系マップ」の作成を計画しています。例えば、武蔵野大学(有明キャンパス)の屋上では、農園での養蜂プロジェクトが始まっていますし、海上公園でも季節ごとに多様な生き物を目にすることができるほど、自然資本が豊かになっています。埋め立てによる人工の島なのに、いつの間にか多様な生き物が根付いているのは面白いですよね。今後、環境省の「自然共生サイト(※1)」認定などにも繋げ、まちへの愛着に昇華させていきたいです。

※1 自然共生サイト:国が認定した「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」のこと。環境省は2023年度から、企業の森や里地里山、都市の緑地などを自然共生サイトとして認定する取り組みを進めている。

参考:環境省「自然共生サイト」

にぎわいと環境の「二つの車輪」で、世界中から期待されるまちに

まち協が共催している冬の風物詩「お台場レインボー花火」

まち協が共催している冬の風物詩「お台場レインボー花火」

最後に、5年後、10年後の未来へ向けたビジョンをお聞かせください。

佐藤:
環境はもちろんですが、やはりこのまちの魅力である「にぎわい」を止めてはいけないと思っています。先月(2026年3月)、お台場海浜公園に国内最大級の150メートル高射噴水「東京アクアシンフォニー」が完成しました。こうした新しいシンボルによって、さらに来場者が増えていく。一方で、単に人を集めるだけでなく、環境にも配慮した「優しいまち」であること。この二つの車輪を回していくことが、事務局としての理想です。

一時期、お台場は「廃れた」と言われたこともありましたが、今、脱炭素という新しい価値を武器に、再び、興味を持ってもらえるチャンスが来ています。10年後には、「日本の脱炭素モデルを視察するなら臨海副都心へ」と言われるような、世界中から視察が来るような、期待されるまちを目指していきたいです。

鈴木:
結局、まちの価値は「らしさ」をどう作るかだと思うんです。環境のために何かを我慢するのではなく、まちの仕組み側で脱炭素を実現し、誰もが「罪悪感なく、心からにぎわいを楽しめるまち」を作りたい。ネイチャーポジティブ(※2 )な取り組みやクリーンエネルギーの導入を通じて、このまちに来た人が環境負荷を気にせず過ごすことができれば、それは世界に誇れるこのまちらしいブランドになるはずです。

立場を超えて夢を語り合う文化が根付いているこのまちなら、単なる数値達成を超えて、愛着の中に数値が紐づいていく。世界に自信を持って発信できる未来を、仲間たちとともに形にしていきたいですね。

※2 ネイチャーポジティブ:自然再興。自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること。生物多様性国家戦略2023-2030における2050年ビジョン「自然と共生する社会」の達成に向けた2030年ミッションとして掲げられている。

環境PTの活動には毎回100人を超える会員らが参加。この日は、臨海副都心エリアを訪れるお客様をおもてなしできるよう、夏の花々を植栽した

環境PTの活動には毎回100人を超える会員らが参加。
この日は、臨海副都心エリアを訪れるお客様をおもてなしできるよう、夏の花々を植栽した


一般社団法人 東京臨海副都心まちづくり協議会

平成9年9月に任意団体として発足し、平成27年2月に法人化。東京臨海副都心の永続的な発展に向け、自主的なまちづくり指針、地域振興策の策定及び実施ならびに地域全体の諸課題について、東京都とのパートナーシップのもと、共同で対処していくことを目的として、「臨海副都心広告協定」に基づく屋外広告物の自主規制(第三者広告の禁止、壁面広告の制限等)に取り組むとともに、にぎわい・集客、環境、防災・防犯に関する各種の事業を展開している。

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